作:菜の花すみれ・前田きん
メローネです〜。
あのあの〜、いつも大好きなごしゅじんさまのため、がんばってるです〜。
ごしゅじんさまがうれしいことがうれしいです〜。
でも、メローネ、怒られてばかりです〜。
しっかりしないと、ごしゅじんさまのメイドをクビになってしまいます〜。
だから、一生懸命がんばるです〜。
もっといっぱいいっぱいご奉仕するです〜。

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お耳をぴくぴく。尻尾をパタパタ。
その日、メローネは近くの池までやってきていた。
「とっても深そうなんですね〜」
メローネは桟橋から身を乗り出して、尻尾を左右にフリフリしながら確かめる。
水はきれいなのか、汚れていないか。
透明の度合いをじっと眺めたり、匂いを嗅いだりと忙しい。

そして、ひとしきり調べた後、ほわっと柔らかい笑みを浮かべた。
「たくさんキレイな水があって、"すぱいしータンポポ働きクン4号"のお手入れには、ちょうどいいんです〜」
通称"働きクン"は、メローネがいつも使ってる巨大なカナヅチのことである。
メローネ曰く、とっても働きものなので、"働きクン"。
丸くてイガイガしている彼の形を、彼女はとても気に入っている。
使い方は様々。例えば……。
高いところにある物が、取りやすくなる。たとえば、洗濯物が風に飛ばされて木に引っかかったときとかに、とても重宝するのである。
道をふさぐ邪魔っけな岩を、一発でコナゴナにすることができるのだ。
武器としても、凶悪な威力を発揮する。
いや、本来なら武器にしか使えないところなのだが……。
ともかく、そんな"働きクン"をメローネはいつも頼りに思っているのだ。

「今日はいつもがんばる"働きクン"を、キレイキレイするです〜!」
気合を込めて手入れに取りかかろうと、メローネは袖をまくる。
細くて柔らかそうな両腕が、むき出しになっていった。
この細っこい腕を一見した限りでは、巨大なカナヅチを自由自在に操る力が秘められているなんて誰も想像できない。
「じゃあ、さっそくはじめるです〜。よいしょっと……」
メローネが池の水を汲もうと、大事な"働きクン"を脇に置いたとき。
その事件は起こった。

コロコロコロ……。

「あ……あれ? "働きクン"、どこにいくですか〜?」
しっかり置いたはずの"働きクン"が、なんとひとりでに転がりだす。
大あわてで手を伸ばすメローネだったが、寸前のところで届かない。

ボチャンッ!

「きゃあ! "働きクン"が〜!」
桟橋のわずかに斜めになったところを転がり、彼女の大事な"働きクン"が池の底へと沈んでいく。
ぶくぶくと無情にも細かな泡をたてながら……。
「は、"働きクン"が池に落ちてしまいました〜!」
鈍色のカナヅチは、もちろん一瞬たりとも浮いたりしない。
うろうろパタパタ。うろうろパタパタ。
散々あたふたと焦ったあと、彼女のとった行動は……。
「"働きクン"〜、いま助けますから〜!」

どぼんっ!

耳を伏せて鼻をつまみ、メローネはぴょんと池に飛び込んだ。
すぐに浮かび上がって、スイスイ泳ぎ回る。
手足で水をかいている姿は犬かきそのもの。
泳ぎはわりと得意なようだ。
けれど、彼女にできるのはそこまで。
どうしてもそれ以上のことができない。
なぜ?
「水にお顔をつけるのは怖いです〜。濡れちゃうです〜」
メローネの思わぬ弱点が明らかになった頃には、もう"働きクン"の姿は影も形も見えなくなっていた。

水の中でもうろうろぱちゃぱちゃ。うろうろぱちゃぱちゃ。
メローネは相棒の危機を前に、ただ半べそで泳ぎ回るしかなかった。
「どうしたの? 大丈夫?」
水面でうろうろするメローネを、たまたま通りがかったパティが見つけて声をかけた。
(やさしそうな金髪の人です〜)
メローネは、パティを見上げながらそう思った。
「池に落ちたの? 大丈夫!? 今、助けるから!」
「あ、あの……メローネ落ちたんじゃなくて泳いでるです〜"働きクン"を助ける為に〜」
「え? はたらき……? よくわかんないけど。ほら、手を貸して! 引っ張ってあげる!」
パティは得意の早とちりで、大根でも扱うようにメローネを池から一気に引き抜いた。
「とても力持ちですね〜」
ぽんと桟橋に降ろされたメローネは、当然すっかり濡れ鼠。
メイド服から垂れたしずくで、足下にはあっという間に水たまりができあがっていた。
「あ〜、服がびしょびしょじゃない!」
パティは持っていたハンカチを、メローネの頭に乗せると……。

ガシガシガシガシ!

鍋でも磨く勢いでメローネの髪を拭き始める。
「い……痛い痛いです〜、耳がとれちゃうです〜」
「あっ、ごめん。こするの強かった?」
「こすりすぎです〜」
いやいや、というように耳を押さえたメローネは、水を払おうと体を動かした。

ぶるぶるぶるぶる。

「きゃ〜! 冷たい!」
メローネが振り散らかした水を、パティは頭からかぶってしまう。
「あっ、ごめんなさいです〜。濡れてしまったですね〜」
びしょ濡れになったパティを見て、メローネはおどおどおど。
「メローネ、怒られてしまうですか〜?」
伏せ耳、上目づかいのメローネに、パティはぷっと吹き出した。
「あはははっ! わんちゃんみたいだね! すごい乾かし方!」
へなへなという効果音付きで、メローネは尻尾を垂らす。
そしてすぐに、尻尾の先からぱたっぱたっと左右に振り始めた。

「ごめんなさいです〜。優しい人〜」
「いいよ、大丈夫だから」
恐縮して頭を下げるメローネの横で、パティは濡れた自分の髪を手で絞る。
そして絞り終えたところで、また元のようにアップで髪を止め直した。
「あの、でも、メローネ落ちたんじゃないです〜。泳いでたです〜」
「……服着たまま泳ぐなんて、よっぽど慌ててたんだね?」
「大事なものを、池に落としてしまったんです〜」
「えっ! そうだったんだ……」
パティは池をのぞいてみるが、もちろんそこには何も見えない。
難しい顔で、パティは頭を傾けた。
「この池、けっこう深いから。潜って見つけるの大変だよ?」
「え〜、困ります〜。とても大事なんです〜」
ピーンと立ち上がる尻尾は、枝毛のようにささくれる。
「ごしゅじんさまにまた怒られてしまいます〜。ごしゅじんさまぁ〜」
べそべそとまた泣きそうになるメローネを、パティは慰めようと頭を抱いて撫でた。
「ああ、泣かない泣かない! いいこと教えてあげるから」

「いいことですか〜?」
「うん、この池の言い伝えでね、きっと役に立つわよ!」
またメローネの尻尾がピンと立ち、今度は耳までしっかりと立ち上がる。
「昔ね、この池で木こりが大事なオノを落としちゃって」
「大事なものを落としたんですね〜、メローネといっしょですね〜」
「そうそう。それで、困った木こりが、金のオノと銀のオノを池に放り込んで……」
「なんで金のオノと銀のオノを、放り込むんですか〜?」
よくわからないという顔のメローネに、パティは苦笑気味に答える。
「なんでだろう? 私もそう聞いただけだから」
「そうなんですか〜」
「それでね、そのまま少し待ってたら、鉄のオノが浮かび上がってきたんだって!」
普通に考えれば、なぜ高価な二つのオノを入れて、戻ってくるのは鉄のオノなのだと疑問に持つところなのだが、メローネに限ってはそうではない。
「それはすごいです〜。これで沈んじゃった"働きクン"もかえってくるです〜」
少し得意げなパティに、メローネはパチパチと拍手を送った。
「メローネも金のカナヅチと銀のカナヅチを用意すればいいんですねー……」
けれど、メローネはまたまた耳もしっぽもぺたんと垂れて、しゅんとしてしまう。
「メローネ、お金持ってません〜……」
「大丈夫だよ!」
と、パティが自信満々に請け負った。
「お金がなければバイトすればいいんだよ!」
「バイトですか〜?」
「うん! だから涙を拭いて……」
パティはメローネの目尻に残った涙の痕を、ハンカチでかいがいしく拭いてやる。
今度はメローネも嫌がらず、されるままになっていた。
「みたところメイドみたいだし、お掃除とかお洗濯とか得意でしょ?」
「はい〜、ごしゅじんさまのために、いつもお掃除とお洗濯をしています〜」
「じゃ、決まり! ついてきて!」
メローネの尻尾が、またパタパタと嬉しげに振られ始めた。
これならなんとかなるかも? 小さな期待にメローネの胸はふくらんだ。

「……事情はわかりましたわ」
パティがメローネに紹介したのは、姫乃樹神社でのバイトだった。
「ちょうど境内の掃除で、人手が欲しくて猫の手も借りたいと思っていたところなんですよ?」
月歌に猫の手と言われて、メローネはじっと自分の手を見つめる。
「メローネの手でもいいですか〜」
「はい、大歓迎です」
「よかったです〜。なんでもやるです〜」
メローネは礼儀正しく会釈したあと、尻尾をふりふり月歌についてゆく。
掃除といえばメイドの得意分野だ。
メローネの肩にもちょっと力が入る。
「それではまず、そこの手洗い台で……」
「片づけるですか〜?」
メローネは備え付けの手洗い台を一抱え。
「よいしょ〜!」

ぎしぎしっ!

思いっきり力を込められた手洗い台は、みしみしと音を立てグラグラし始める。
「ああああ、いや、そのままで! 片づけなくてもいいですから!」
あわてふためいた月歌に止められ、メローネはきょとんとした様子で首を傾げる。
「いいんですか〜? 片づけないんですか〜?」
「いいんです、それは動かすのではなくてですね……」
月歌は小さく咳払いして自分を落ち着けてから、再度メローネにお願いする。
「やってほしいのは、そこの石灯籠を……」
「片づけるですか〜?」

ぎしぎしぎしっ!!

「そのままで! そのままでいいですから!」
またも怪力で石灯籠を運んでいこうとするメローネを、月歌はあわてて止めた。
「あの……運んで片づけるのではなくて、それを使ってお掃除をしてほしいんです……」
「ほ、ほぇ?」
並はずれたメローネの早とちりに、月歌はそっと自分の汗を拭う。
(この子は本当に大丈夫かしら?)
なにしろ姫乃樹神社には、神聖な代物がたくさん奉納されている。もちろん、壊して良いものなど一つもないのである。
月歌は掃除を手伝ってもらいながら、場所を選ばなければならないという事態に陥っていた。
「うーん……そうね。あれなら、壊れることもないかしら」
しばらく考えた後、月歌はひとつのアイディアを思いつき、ポンと手を打った。
「ほえ?」
「では、こちらについてきてください」
「は、はいです〜!」

「これをきれいにするですか〜……?」
メローネは目の前に鎮座する大きな置物を指差して震えた。
「はい、お願いできますか?」
これなら少しくらいドジなメローネでも壊すことはないだろうと、月歌はふんだのだ。確かに、そこにある置物はどっしりしていて頑丈そうだった。
「は、はい〜。で、でも……あの〜」
金と銀のカナヅチを作るため、一生懸命掃除してお手当をもらう。
その重要な使命に燃えるメローネだったが、実は苦手なものもあったのである。
「……これはとても怖いです〜。怖い顔をしてるです〜」
「狛犬というんですよ。魔よけの力があるんです」
大きな口、大きな目、大きな手。
「メローネより大きいです〜……」
固そうな石でできた大きな犬の像は、くわっと口をつり上げてメローネを睨みつけている。
「で……でもっ、犬さんなら、お友達になれるはずです〜」
「はい、お友達になってくださいね」
とは言ったものの、目はなるべく合わせないようにしながら、メローネは手足をなでなでするようにぞうきんをかける。
「じゃ、しばらく私も別の用事をすませてきますから」
途端にメローネはおろおろし始める。
「行ってしまうですか〜?」
「すぐ戻ってきますよ」

メローネは狛犬と二匹、取り残されてしまった。
メローネは、そっと狛犬の方を見る。
やっぱりにらんでいるようで、怖い……。
「ちょっとだけ、向こうを向いてくれるですか〜? すぐにキレイキレイしますから〜」
メローネは狛犬の首を、両手で少し回してみた。

ゴリリッ

ちょっと普通じゃない音がする。
しかし、狛犬は見事にあさってを向き、メローネは安心した。
「メローネ、軽く触っただけですよ〜? 本当ですよ〜?」
だから首がぐらぐらしいてるのは、メローネのせいではないはず。彼女は自分にそう言い聞かせた。
「狛犬さん、ありがとうです〜」
メローネは狛犬に礼を言いながら、せっせと掃除を続ける。
それはとてもはかどるものだった。

「狛犬、キレイになりましたね」
用事から戻ってきた月歌に自分の仕事を褒められて、メローネは大喜び。
「お友達ですから〜」
でも、すぐに月歌は青ざめる。
「……首の向き……そっちむきでしたっけ?」
「頼んだら言うことを聞いてくれました〜」
狛犬の首が頷くように、グラグラと揺れる。
「きゃ〜〜〜〜〜〜〜! く、首が! 首が取れて……!!! なんてバチあたりな……。は、はぅ〜……」

ドテーン。

「だ、だいじょうぶですか〜? だいじょうぶですか〜?」
月歌は目を回して倒れてしまった。
メローネはそのまわりでまた、うろうろパタパタ、うろうろパタパタ。
「なんで〜? なんで〜? メローネ一生懸命やったのに、また失敗しちゃったですか〜?」

「……ここはもう結構ですので、私のお友達を紹介しますね」
しばらくして意識を取り戻した月歌は、きっぱりとメローネにそう告げた。
「もうここのお掃除はお手伝いしなくていいんですか〜」
「ええ、もうたぶん、これ以上は……」
月歌はどこかふらふらしながら、メローネに新しい働き先の道順を教えた。
メローネはお手当をもらって、嬉しい気持ちになった。
"働きクン"にまた会える日もそう遠くはない。
「またがんばって、お金をためるです〜!」
メローネは手綱の取れた子犬のように駆けだした。

「……………………」
「よ……よろしくです〜」
レンの屋敷を紹介されたメローネは、その偉容におろおろした。
メローネ以外にも多くのメイドが働く姿を見て、その機敏な動作に不安を募らせる。
「メローネ、ここで働けるですか〜?」
「……………………」
耳を伏せて小さくなるメローネを、レンは手招きで誘う。
メローネが連れて行かれた先、それは無数の本が並ぶ部屋だった。
「メローネ、こんなにたくさんの本を見たことないです〜」
それがなんの本であるかはメローネにはわからない。けれども、それが貴重で非常に価値のあるものだということぐらいはわかる。
メローネは、自分がとても重要な場所の掃除を任されたことに気がついた。
「ここの掃除をするですか〜?」
「……………………」
レンは小さく頷いた。
「メローネ、わかったです〜。一生懸命掃除するです〜!」
メローネは喜び勇んで猛烈にハタキをかけ始める。

パタパタパタパタ。

「うわっ、すごいホコリです〜! 前が全然見えないです〜!」
長い間に堆積したほこりが一気に舞い上がって、メローネはあっという間に右も左もわからなくなった。
でも、メローネもメイドだ。それぐらいであわてたりしない。
「お掃除はメイドのお仕事です〜腕がなるです〜」
徹底的にホコリを払おうと、ますます元気にハタキをふるう。
「それにしてもこの部屋、いろんなものがあるです〜」
部屋の中にはツボや置物、絵画や工芸品が飾られ、どれも高そうなものだった。
さっき、姫乃樹神社で狛犬を壊して、月歌が倒れてしまったのを覚えているだけに、メローネとしてもなるべく壊さないように掃除したい。
メローネは慎重にハタキを振った。
そのうちにホコリの中から、真っ白な人形が現れた。
「これのホコリも払うですね〜」

パタパタパタパタ。

「………………コホン」
「……いま、お人形さんがコホンって言ったですね〜?」
メローネはまじまじと人形を見つめ直す。
「コホンって言うお人形さんですか〜!?」
もちろん、メローネはそんな人形のことを聞いたことがない。高い物ならそういうものもあるかもしれないとメローネが思い始めた頃、ようやくホコリが薄れその輪郭がはっきりし始めた。
「……またまたメローネはやってしまいました〜」
白い人形に見えたもの。
それは舞い上がったホコリにまみれ、白くなったレンだった。
「……………………」
レンは無言で、かぶったほこりを手で払う。
メローネはおろおろしながら、レンに尋ねた。
「怒っているですか〜?」
「……………………」
レンは怒っているように見えなかった。
もちろん笑ってもいなかった。
もともと表情が乏しいせいで、メローネにはレンがどう思っているのかさっぱりわからなかった。
「メローネ、どうしたらよいのでしょうか〜」
「……………………」
おろおろするメローネに、レンはゆっくりと何かを指す。
そこには大きな窓があった。
「窓ですか〜? 窓を開けるですね〜?」
「……………………」
閉め切った部屋の中では、ホコリがこもるのも当然のこと。
窓を開けて空気を入れ換えるべく、メローネは窓際に駆け寄った。
「それにしてもかたい窓ですね〜。なかなかあかないですよ〜?」
だから、メローネは少し押してみた。

がっしゃーん!

「窓を押したら外れたです〜」
メローネが押した窓は、その枠ごと見事に落ちていった。
「メローネは軽く押しただけなんです〜。でも、窓が外れてしまったんです〜」
あわてて言い募るメローネに、レンは何かを指さした。
「ちょうつがいですか〜?」
それは完全にとれていた。錆びて赤くなり、すでにかなり脆い状態にあったようだった。
「でも、このちょうつがい、外に開かないですか〜? 中に開く用ですね〜」
メローネが内開きの窓を外開きにしようとして、構造にとどめを刺してしまったのだ。
「メローネ、失敗しましたか〜?」
「……………………」
「すみれ色の人、怒っていますか〜?」
「……………………」
なかなか答えてもらえないことに縮こまるメローネだったが、レンはやがてうつむくメローネの頭に手を乗せた。
「……禍福倚伏(かふくいふく)」
そしてレンはメローネのふかふかの髪を、ゆっくりと撫でる。
禍福倚伏、というその言葉は、幸福と災いは交互にやってくるという意味。
良いこともあれば悪いこともある、気にしないようにとレンはメローネを慰めたのだった。
「よくわからないですけど〜、ごめんなさいです〜」

無事(?)にレンの屋敷での仕事も終えて、メローネはどうにかお手当を手に入れることができた。
「たくさん失敗したですけど、お手当ちゃんといただけたです〜」
姫乃樹神社とラルファ家のお手伝いでもらったお手当を、メローネはほくほくした気分でにぎりしめていた。
お金の価値はあまりわからないメローネだが、単純に、頑張ったご褒美をもらえるのは嬉しい! そんな気持ちだったのだ。
しかも。
「これがあれば、また"働きクン"に会えるです〜!」
さっそく、金のカナヅチと銀のカナヅチを作るために、メローネはそのお手当をつぎ込んだ。

カナヅチの作成はフェアリーたちが手伝ってくれた。
「……でもちっちゃいです〜。サイズもフェアリーサイズです〜」
一日働いたお手当を全部使っても、それが作れるぎりぎりのサイズだった。
「でも、メローネ、いっぱいがんばったですよ〜!」
メローネは頑張った一日を思いだしながら、とにかくやり遂げたことが嬉しくて、尻尾をちぎれんばかりに振っていた。
「これで"働きクン"をみつけるです〜!」
できあがったカナヅチにも自信満々だ。
「金と銀の"ミニ働きクン"を、池にあげちゃうです〜!」

ボチャンッ!

「これで、"働きクン"はかえってくるですか〜?」
祈るような面持ちで、メローネは池の中をのぞき込む。
「かえってきてほしいです〜」

ぶくぶくぶく。

音を立てて、なにかが浮かび上がってきた。
「金髪の人の言っていたことは本当だったです〜! 大成功です〜。感謝感激です〜!」
浮かばないはずの鉄のかたまりが、金と銀のカナヅチの代わりに見事浮かび上がってきた。

「でも、"すぱいしータンポポ働きクン4号"、ちょっとヘンですね〜?」
形はおかしくない。丸くてイガイガしているところは、落とす前の"働きクン"とまったく一緒だ。違っているのは……。

「あれれ? ちいちゃいですか〜? フェアリーサイズになっちゃったですか〜!?」
そう。大人でも振り回すのに苦労しそうな特大の"働きクン"は、形をそのままにフェアリーサイズまで小さくなっていた。

「金と銀の"働きクン"がちっちゃかったからですか〜!? 大きくないとダメですか〜!?」
メローネは悲鳴をあげた。けれどもやっぱり大きさは変わらない。
「怒られるですか〜? ごしゅじんさまに、怒られるですか〜〜?」

■■もしも4人がどこかで会っていたら……そんな物語でした■■

     ★おしまい★


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©BROCCOLI Illust/桜沢いづみ