作:菜の花すみれ
私の名前は、姫乃樹月歌と申します。
ここエルニスの姫乃樹神社で、巫女をしております。
巫女とは、神に仕えて神社を守り、まつりごとを行う存在です。
ですから、普段は、お祓いをしたり、参拝客をおもてなししたり……。
けれど、ここ、姫乃樹神社の巫女としての役割は、それだけじゃないんです。
一番大事な、私たち姫乃樹神社の巫女の仕事は――クロスゲートを管理すること、なんです。

「みゃ〜埃っぽいみゃ〜。コホンコホン!」
「宝物庫は埃がたまりやすいからお掃除が大変ですわ……」
只今、一番仲良しの妖精、ねこめと一緒に、宝物庫のお掃除をしていますの。
ここには、クロスゲートから落ちてきた様々な異世界の物が納められています。
姫乃樹神社では、クロスゲートから落ちてきた呪われた品や、力をまとった武器などを奉って保管する役割があるんです。
呪われた品はお祓いをし、力をまとった武器はいつかそれを託すべき勇者様が現れた時に、お渡しするようにと、私は幼い頃から教えられてきました。
ここに奉られている武器は、封印を施された危険な物ばかりです。
そんな物だからこそ、乱雑な扱いをすることは出来ませんが、たまにはこうして埃をはらってきれいにしておきたいものです……。
「お掃除、お掃除!」
「月歌〜この短剣はドコに置けばいいみゃ?」
「あっ、だめ! それを素手で触っては……!」

ビリビリビリッ!

激しい稲妻がねこめに落ちます!
「みゃみゃみゃぁあああ!!!」
「それは、持った者に稲妻が落ちる呪われた武器……」
「先に言ってほしかったみゃ〜」
「ごめんなさいね。でも、ここに収めてある武器は本当に危険な物ばかりだから気を付けてね」
「わ、わかったみゃ〜……」

そんなこんなで、お掃除再開です。
「月歌〜こっちにある剣はなんなんだみゃ? いっぱい並んでるみゃ!」
「まず、手前にあるのが刺したものを凍らせる剣……」
「ふむふむ。すごいみゃ〜冷凍庫代わりにもってこいみゃ! じゃあ、あっちのあれはなんだみゃ?」
「それは、切った物を燃やす炎の刀です」
「みゃ〜お料理にも使えそうな便利グッズみゃ! 切った瞬間に焼き魚の出来上がりみゃ!」
「そう言われてみればそうですわね。これがあれば私にでも焼き魚が簡単に出来ますわ……って、ねこめったら! 神聖な刀をそんな風に言って……」
「みゃ〜。月歌だってのってたくせに〜」
「コ、コホン!」
「ねー月歌、じゃあ、一番奥にある、おっきいあれはなんなんだみゃ?」
「ああ、あれ! あれは、とってもすごいんですよ!」
私は一番奥に並べてあったひときわ目立つ巨大な槍を手に取りました。
「どんな風にすごいんだみゃ? なんだか重そうな槍だみゃ〜」
「これは、地球から落ちてきたものとしてこの姫乃樹神社で納めてあるのです……」
「地球? ねこめがいた地球の名古屋って場所にはこんなものなかったみゃ……」
「地球の中国という場所にもともとはあったものらしいのですが……どんなものでも貫く槍なんですって」
「ど、どんなものでもかみゃ!? ドラゴンの角よりも固いのかみゃ??」
「ええ……」
私は慎重に槍の埃をはらうと、元の場所に戻します。
「他にはもっとスゴイ物はないのかみゃ? やっぱり、あの槍が最強なのかみゃ?」
「あそこに飾られているあの盾……」
私は宝物庫の壁を指差しました。そこには古めかしい大きな頑丈そうな盾がかけられています。
「あれは、なんでも止める盾なんですって。大昔に、槍と一緒にでクロスゲートから落ちてきたと聞いています」
「ほえ〜すっごいみゃ〜! なんでも貫く槍に、なんでも止める盾かみゃ〜」
「そうでしょう! すごいわよね」
「……んみゃ? でも、ちょっと待つみゃ! その槍で盾を刺すとどうなるみゃ?」
「……えーと、それは」
「それは……????」
「えー…………っと……」
「………………????」
「まあ、そんなことはよいとして! ともかくクロスゲートから出てくる武器は強力で危険なんですよー」
「みゃみゃ!? 無茶苦茶なまとめ方みゃっ!」
「さっ、お掃除、お掃除! 頑張りましょう〜」
「月歌〜! ずるいみゃ! ちゃんと答えるみゃ〜〜〜!」
――と、その時です。
「月歌!!」
「え? どうしたの? ねこめ。急に怖い顔して……」
「クロスゲートが開く気配がするみゃ」
「え?! 本当……?」
「……なんだか危険な雰囲気みゃ! 急ぐみゃ!」
「ええ!」
私はエプロンと三角巾を急いで取ると、大慌てで姫乃樹神社を出ました。
今回はなにが落ちてくるというのでしょう……。
危険な物……一体、なにが?!

私はねこめに案内された先の森の中で、空を
見上げながら待ちます。
ドキドキドキ……。
一体、何が……!?
「精神を統一しなくては……もしもの時に備えて……」
私は目を閉じて両手を合わせ、気持ちを落ち着けるようにつとめます。
自分の中の気を高めて、霊力を発揮できるように。
私たち巫女が日々修行に励んでいるのは、クロスゲートから落ちてきたものが危険な品だった場合、封印したり、効力を抑えたり、非常時に対応できるようにという理由もあるのです。
「き、きたみゃ!」
「え! あっ!」

キラッ

金色に光る物体。丸くて……それに、大きい!?

ヒューーーーーーーーーーン。

落下してくる物体は速度を増して、私の頭上に……思った以上の大きさです!!
金色で……丸い……!!?
「こ、これは……!?」
声をあげた瞬間!

ガコーーーーーン!

――数日後。
私の額には大きなたんこぶ。
私は神社でお洗濯をしながらねこめと話しています。

ジャブジャブジャブ……。

「ま、危険な武器じゃなくてよかったみゃ!」

ジャブジャブジャブ……。

「まあ、そうですけれども……」

ジャブジャブジャブ……。

そう、今回、クロスゲートで落ちてきた物とは、私が今手にしているこれ……。
金色に輝く、大きな円形の、タライ。
「でも……痛かったです……とても……」
クロスゲートから落ちてきたタライは宝物庫からさげられ、我が姫乃樹神社のお洗濯の時に活用されることになりました。
恐ろしい武器じゃなくてよかった……。
けれど、こんなオチって……。

           ★おしまい★


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©BROCCOLI Illust/桜沢いづみ