作:菜の花すみれ
魔法の国、エターティア。
妖精たちの持つオーブの力によって、この世界は美しく保たれている。
ここは、妖精たちの集う理想郷なのだ。
妖精たちによって守られているのは、この上なく美しい、水と光と大地、そして――空。

私の名前は、パティ・アーリア。
魔法国家エルニスで、クロスゲート管理のお手伝いをしているの。
今日もお仕事がんばらなくっちゃ!
「ふぁ〜あ……まだかなぁ〜……琥珀ぅ〜」
「もう少しですわよ。クロスゲートの気配がここら辺の空からはっきりしますもの」
私の相棒の妖精、琥珀がヒラヒラと着物の裾をはためかせて飛び回っている。
琥珀はちっちゃいけれどすっごく頼りになる存在で、私のいいお姉さんみたいな感じかな。
妖精にはクロスゲートの気配を感じることが出来る能力があって、私たちは妖精に力をかりてクロスゲートの管理をしているの。
具体的に管理っていうのはなにかっていうと、クロスゲートっていうのはこの世界に突発的に開く異次元の扉なんだ。そこからは色んな物がいーっぱい落ちてくるの。中には危険な物もあったりして……だから、それを私がなんとかするってわけ!
……で、今、まさに、そのお仕事中。
もうすぐ、この森の上空に開くっていうクロスゲートを私たちは待ちかまえているんだ。
「今回は一体なにが落ちてくるのかなぁ……」
「あ……」
「ん? 琥珀、どうしたの?」
「私ったら、大事な物を忘れてきてしまいましたわ……」
「え? ナニ?」
「妖精のオーブを家に……」
オーブっていうのは、妖精がその力を発揮する時に絶対必要な大事な物。オーブがないと妖精の魔法力は半分、いや、三分の一以下になっちゃうんだってさ。
「私ったら、朝早くてボーっとしていましたわ。目が覚めてクロスゲートの気配を感じ取ってすぐに家を出たから……」
「家にいる時は持ってたんだね。どうりでここに辿り着くまでけっこう迷ったわけだね」
琥珀って、普段はかなりしっかり者なんだけど朝だけはダメなんだよね。
「私、急いで戻って取ってきますわ。ですから、パティ……」
「うん。大丈夫! ここは私に任せておいて! 何が来ても私が守るからね!」
「はい、パティは力持ちですものね」
琥珀はそう言うとヒラヒラと飛んでいった。
信頼されているのって、なんだか嬉しいな。
よ〜っし、頑張っちゃうんだから!
私は気合いをいれて空の監視をはじめた。
………………………。
……………………………………。
…………………………………………………。

だ・け・ど。
「まだなの〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!」
クロスゲートから何も落ちてこない上に、琥珀も帰ってこないよお!! なにしてるの、琥珀〜〜〜〜〜〜!!
しかも……。 グゥ〜。 「あっ……!」
さっき琥珀が言っていたように、今日は朝早くに家を出たの。だから、朝食を食べている暇がなくて。だから、その……。
「おなか空いてきちゃった……」
と、その時。

ドサッ!「あっ! なにか落ちてきたあ!!」
空に開いたクロスゲートから、小さい円柱の箱が降ってきた。
私は体全身のバネを使ってジャンプして、それを空中でキャッチした。

「なにコレ???」
私は着地してから、じっくりと箱を眺めた。
片手で持てる位の大きさで重さもさほどない。
箱に書いてある文字は、エターティアの文字じゃないみたい。
私が箱を振ってみると、中で何かが揺れる音がした。

ガサガサッ!

「きゃっ! 中に何か入ってるみたい……」
なんだろう、なにが入ってるんだろう? 私は箱をジッと見つめて考え込んだ。
箱には、かわいい女の子のイラストが描いてある。
「女の子の絵……」
まさか、中に……?!
「妖精が入っている箱だったりして!!」
そ、そうだったら早く助けなきゃ!
「ねえ、誰か中にいるの? いるなら返事をして!」
私は箱に向かって声をかけた。
けれど。
シ〜〜〜〜〜〜ン……。

「あ、あれ?」
返事がないよ。どうしたんだろう……。
も、もしかして……!
もう、中にいる妖精が危険な状況なんじゃ!
「大丈夫!? 今、私がここから出してあげるから!」
箱に口をよせて、中にいるであろう妖精に声をかける。
「中にいる妖精に傷をつけないように、箱だけ壊さなきゃ……」
私は拳に力を込めた。
「よ〜っし、え〜〜〜〜〜〜ぃ」
「ちょっと、パティ! なにをしてるんですの?!」 スカッ!
「わぁあ! もう! ビックリしたなぁ! 琥珀!」
思わず空振りしちゃったよ。もう! 集中している時に声をかけるんだから……。
「パティ、その箱を壊す気なんですの!?」
「だって、中に妖精が閉じこめられているみたいなの! 助けなきゃ!」
「えぇ!? 待ってください。妖精がいる気配はありませんわ!」
「ウソ! じゃあ、ちがうのかな……」
私ったら、もしかして早とちりしてたのかな?! ありゃりゃ……。
「あら、これ……」
琥珀は円柱の箱をジッと見つめる。
「私、知っていますわ。これは、地球の物です」
「えぇ!? そうなの!? 何? これ、なんなの!?」
「これは……地球ではとっても有名な物ですわ。このフタを開けて……」
円柱の上にある紙のフタを琥珀は器用に開けた。すごい、本当に知ってるんだ……。
箱の中には白っぽいような石……? みたいな物が入っていた。なんだろう、これ。
「これはきっとパティの大好きな物ですわ」
なにそれ? こんなのわかる人いる???
「うふふ。わかりませんよね、パティには。答えは……」
「答えは? 早く教えてよ! 琥珀う〜!」
「地球でもっとも有名な簡易日常食『カップ麺』ですわ!」
「……カップ麺ってなぁに?」
「パティのだーい好きな食べ物ですわ」
「うそ! これが食べ物……? こんな石が食べれるの?」
「ええ!」

グゥ〜。

「あ……あはは! なんだか聞いたら食べたくなってきちゃった」
「食べたらいいですわ!」
「ほんと? じゃあ、いっただきま〜ぁ」
私は箱の中の石にかじりつこうとした。
「あー! ダメダメ。ちがいますわ。家に帰ってお湯を沸かしてからですわ」
琥珀は私からカップ麺を取り返して言った。
「お湯!? う〜ん、でも待ちきれないよ〜。すぐに食べたい〜」
「わがまま言われても困りますわ」
「だって〜お腹へっちゃったんだもん……」

グゥ〜……。

言ってるそばから、私のお腹から大きな音がした。もう、腹ぺこだよ、私!
「まったく、仕方ありませんわね……」
琥珀はそう言うと、両手を大きく振り上げて呪文を唱えた。
すると、森がざわめきはじめ、木々についた微かな水滴が琥珀の手の前に集まりはじめた。
「パティ、これをお湯にしてもらえます?」
「もっちろん! そんなの任せてよ!」
私は、拳に力を込めて集まった水のボールにむけてパンチをくりだした。
すると、私の拳から放たれたファイヤーボールが水のボールとぶつかって、とたんにお湯の出来上がりってわけ。
格闘戦士の私にとっては、こんな芸当、簡単なんだから!
「お見事ですわ、パティ。では、これに、こうやってお湯を注ぐんですのよ」
琥珀は出来上がったお湯を指先で操って、カップ麺の箱の中にいれた。
「フムフム……。それで?」
「そしてフタを閉めて、三分間待つんですわ。するとラーメンができるんですのよ」
「三分!? たった三分でラーメンができるの!?」
し、信じられない……! もしかして、地球ってすごい所……?! エルニス以上の魔法国家だったりして……。
そーんなことを考えているうちに。

――三分経過!
「出来上がりましたわ。どうぞ、パティ」
「いっただきま〜〜す!」

ズズズ……。

こ、これ……!!
「おっいし〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
初めての味だよ! これが、カップ麺なんだね! すごい、すごい!!
「満足したようでよかったですわ。今回のクロスゲートはなにも危険がなくてよかったですわね」
「うん! しかも、こんな美味しい物が落ちてくるなんて超ラッキーだよ!」

――数日後。
私はあの日から、さらに一生懸命クロスゲートの管理のお仕事に励んでいた。
っていうのも。
「またカップ麺落ちてこないかな〜。また食べたいなぁ〜」
って思ってたから。
「……って、そんな都合良くいくわけないよね」
私は空を見上げて呟いた。
空からごちそうが降ってくるなんて夢物語だよ。
「パティ! クロスゲートからカップ麺が山ほど落ちてきましたわ!」
「……ってうそぉ!」
「本当ですわ! 地球の食品会社の倉庫とクロスゲートがつながったみたいなんですの!」
「しょくひんこうじょう? よくわかんないけど、とにかくカップ麺がいっぱいなんだよね?! 早く行こう! 琥珀! 連れてって!」
琥珀に促されてついていくと、そこにはカップ麺の山が!!
「わ〜〜〜〜〜〜〜! すっごーい!!」
「そうでしょう」
「でも、今回は円柱じゃなくて四角い箱だね」
「ええ。私も四角いタイプははじめてみましたが、ここに地球の文字で『カップ麺』と書いてありますから間違いありませんわ」
「本当だ。振るとガサガサするのも一緒だしね」
「ええ」
「琥珀! 街のみんなを呼んでこれでパーティーをしようよ!」
「ええ! そういたしましょう」
というわけで。
ここは街の公園広場。
みんなの手には一人一個、カップ麺。
「これが食べ物だなんて信じられないね」
「クロスゲートから落ちてきたんだってさ」
「へー! すごーい」
みんな異世界の食べ物にドキドキしているみたい。
よ〜っし、ここは私が経験者としてみんなをリードしてあげなきゃ!
「みなさ〜ん、まずはこのフタをあけてくださ〜い。それで、ここにお湯をいれるの! それで、フタを閉めて三分待ちまーす!」
うふふ、なんか私、先生みたい!
みんな美味しくてビックリするだろうなぁ。
楽しみ〜! 美味しい物はやっぱり、みんなで食べなきゃね!
そして、三分経過!
「じゃ、みんなでいただきま〜〜〜す……。うっ………………!!!!」
あ、あれ……?
う、うそ……!
どうして……?!

『マズイ!!!!』

「なんで?! 前のと全然違う……! 味がしない……!」
私は慌てて琥珀に言った。
「わかりませんわ……。どういうことでしょう……?」
「え〜〜〜〜ん、みんなごめんなさ〜〜〜〜〜い」
私はこの時はまだ知らなかった。
このカップ麺が『カップ焼きそば』だったってことに。
カップ麺はカップ麺でも、カップ焼きそばは作り方がちがうってことを知るのは、このずーっと後のこと。
地球について研究してる学者さんが、このカップ焼きそばの箱の文字を解析してくれてから知ったんだ。
「せっかくのカップ麺だったのに〜残念っ!」
私はまた空を眺めている。
今度こそ、ちゃんと作るから、またカップ麺が落ちてこないかなって……。

           ★おしまい★


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©BROCCOLI Illust/桜沢いづみ